えば跳躍する。嫌だと思えば萎靡《いび》して振わないというのである。下女は耳を真赤にして聴いていた。僕は不愉快を感じて、自分の部屋に帰った。
学校の課業はむつかしいとも思わなかった。お父様に英語を習っていたので、Adler とかいう人の字書を使っていた。独英と英独との二冊になっている。退屈した時には、membre という語を引いて Zeugungsglied という語を出したり、pudenda という語を引いて Scham という語を出したりして、ひとりで可笑《おか》しがっていたこともある。しかしそれも性欲に支配せられて、そんな語を面白がったのではない。人の口に上《のぼ》せない隠微の事として面白がったのである。それだから同時に fart という語を引いて Furz という語を出して見て記憶していた。あるとき独逸人の教師が化学の初歩を教えていて、硫化水素をこしらえて見せた。そしてこの瓦斯《ガス》を含んでいるものを知っているかと問うた。一人の生徒が faule Eier と答えた。いかにも腐った卵には同じ臭がある。まだ何かあるかと問うた。僕が起立して声高く叫んだ。
『Furz !』
『Wa
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