ず》れおちて全く軌道を埋《うず》めたるあり、橋のおちたるありて、車かよわずといえば、鞋《わらじ》はきていず。軌道より左に折れてもとの街道をゆくに、これも断《た》えたる処あれば、山を踰《こ》え渓《たに》を渡りなどす。松井田より汽車に乗りて高崎に抵《いた》り、ここにて乗《の》りかえて新町につき、人力車を雇《やと》いて本庄にゆけば、上野までの汽車みち、阻礙なしといえり。汽車は日に晒《さら》したるに人を載することありて、そのおりの暑《あつ》さ堪えがたし、西国にてはさぞ甚しからん。このたびの如き変ある日には是非《ぜひ》なけれど、客をあまりに多く容《い》るるは、よからぬことなり。また車丁等には、上、中、下等の客というこころなくして、彼は洋服《ようふく》きたれば、定めてありがたき官員ならん、此は草鞋《わらじ》はきたれば、定めていやしき農夫ならんという想像《そうぞう》のみあるように見うけたり。上等、中等の室に入りて、切符《きっぷ》しらぶるにも、洋服きたる人とその同行者とは問《と》わずして、日本服のものはもらすことなかりき。また豊野の停車場にては、小荷物|預《あず》けんといいしに、聞届《ききとど》けがた
前へ 次へ
全21ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング