の道《みち》は、はじめ来しおりの道よりは近きに下り坂なれば、人力車にてゆく。小布施という村にて、しばし憩《いこ》いぬ。このわたりの野に、鴨頭草のみおい出でて、目の及ぶかぎり碧《あお》きところあり、又秋萩の繁《しげ》りたる処あり。麻畑の傍《そば》を過ぐ、半ば刈《か》りたり。信濃川にいでて見るに船橋|断《た》えたり。小舟にてわたる。豊野より汽車に乗りて、軽井沢にゆく。途次線路の壊《やぶ》れたるところ多し、又|仮《かり》に繕《つくろ》いたるのみなれば、そこに来るごとに車のあゆみを緩《ゆる》くす。近き流を見るに、濁浪《だくろう》岸を打ちて、堤を破りたるところ少からず。されど稲は皆|恙《つつが》なし。夜軽井沢の油屋にやどる。
二十七日、払暁|荷車《にぐるま》に乗りて鉄道をゆく。さきにのりし箱に比《くら》ぶれば、はるかに勝《まさ》れり。固より撥条《バネ》なきことは同じけれど、壁なく天井《てんじょう》なきために、風のかよいよくて心地あしきことなし。碓氷嶺過ぎて横川に抵《いた》る。嶺の路ここかしこに壊《やぶ》れたるところ多かりしが、そは皆かりに繕いたれば車通いしなり。横川よりゆくての方は、山の頽《く
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