傾《かたむ》きたりといえば、彼コルシカ[#「コルシカ」に二重傍線]人の「ワンデツタ」に似《に》たる我邦|復讐《ふくしゅう》の事、いま奈何《いか》におもうらん。されど其母殺したりという人は、安《やす》き心もあらぬなるべし。きょうは女郎花《おみなえし》、桔梗《ききょう》など折来《おりき》たりて、再び瓶《かめ》にさしぬ。
 二十五日、法科大学の学生なる丸山という人訪いく。米子の滝の勝《しょう》を語《かた》りて、ここへ来し途《みち》なる須坂より遠からずと教《おし》えらる。滝の話は、かねても聞きしことなれど、往て観《み》んとおもう心切なり。
 二十六日、天|陰《くも》りて霧《きり》あり。きょうは米子に往かんと、かねて心がまえしたりしが、偶々《たまたま》信濃新報を見しに、処々の水害にかえり路の安からぬこと、かずかず書《か》きしるしたれば、最早《もはや》京に還るべき期も迫りたるに、ここに停《とど》まること久しきにすぎて、思いかけず期に遅《おく》るることなどあらんも計られずと、危《あや》ぶみおもいて、須坂に在りて待《ま》たんといわれし丸山氏のもとへ人をやりて謝し、急《いそ》ぎて豊野の方へいでたちぬ。こ
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