の塾《じゅく》に入りて、撃剣《げきけん》を学び、木村氏は熊谷の裁判所に出勤《しゅっきん》したりしに、或る日六郎|尋《たづ》ねきて、撃剣の時|誤《あやま》りて肋骨《あばらぼね》一本折りたれば、しばしおん身が許《もと》にて保養《ほよう》したしという。さて持《も》てきし薬《くすり》など服《ふく》して、木村氏のもとにありしが、いつまでも手を空《むなし》くしてあるべきにあらねば、月給八円の雇吏《やとい》としぬ。その頃より六郎|酒色《しゅしょく》に酖《ふけ》りて、木村氏に借銭《しゃくせん》払わすること屡々《しばしば》なり。ややありて旅費《りょひ》を求《もと》めてここを去りぬ。後に聞けば六郎が熊谷に来しは、任所《にんしょ》へゆきし一瀬が跡《あと》追《お》いてゆかんに、旅費なければこれを獲《え》ぬとてなりけり。酒色に酖ると見えしも、木村氏の前をかく繕《つく》いしのみにて、夜な夜な撃剣のわざを鍛《きた》いぬ。任所にては一瀬を打つべき隙《ひま》なかりしかば、随《したが》いて東京に出で、さて望を遂《と》げぬ。その折の事は世のよく知る所なれば、ここにはいわず。臼井六郎も今は獄《ごく》を出でたり。獄中にて西教に
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