り。引放《ひきはな》たんとするに、母|劇《はげ》しくすまいて、屈する気色《けしき》なければ、止むを得ずして殺しぬ。六郎が祖父は隠居所《いんきょじょ》にありしが、馳出《はせい》でて門のあきたるを見て、外なる狼藉者《ろうぜきもの》を入れじと、門を鎖《とざ》さんとせしが、白刃振りて迫《せま》られ、勢《いきおい》敵《てき》しがたしとやおもいけん、また隠居所に入りぬ。六郎が母を殺しし人は、今もながらえたり。六郎が父殺しし人の、一瀬なりしことは、初知るものなかりしが、故《ことさ》らに迹《あと》を滅《け》さんと、きりこみし人々、皆其刀を礪《と》がせし中に、一瀬が刀の刃《は》二個処いちじるしくこぼれたるが、臼井が短刀のはのこぼれに吻合《ふんごう》したるより露《あら》われにき。六郎が父の首《くび》は人々持ちかえりしが、彼素肌にてつき殺されし人は、ずだずだに切《き》られて、頭さえ砕《くだ》けたりき。木村氏はそのおり臼井の邸に向いし一人なりしが、刃にちぬるに至らず、六郎が東京に出でて勤学《きんがく》せんといいしときも、親類《しんるい》のちなみありとて、共に旅立《たびだ》つこととなりぬ。六郎は東京にて山岡鉄舟
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