より洋式《ようしき》の隊来るを、境《さかい》にて拒み、遂に入れざりしほどの勢なりき。これに反対《はんたい》したる開化党は多く年長《とした》けたる士なりしが、其|首《かしら》にたちて事をなす学者二人ありて、皆陽明学者なりし、その一人は六郎が父なりき。勤王党の少壮者二手に分かれて、ある夜彼二人の邸《やしき》にきりこみぬ。なにがしという一人の家を囲《かこ》みたるおり、鶏《にわとり》の塒《ねぐら》にありしが、驚きて鳴きしに、主人すは狐《きつね》の来しよと、素肌《すはだか》にて起き、戸を出ずる処を、名乗掛《なのりか》けて唯《ただ》一槍《ひとやり》に殺しぬ。六郎が父は、其夜|酔臥《すいが》したりしが、枕《まくら》もとにて声掛けられ、忽ちはね起きて短刀《たんとう》抜《ぬ》きはなし、一たち斫《き》られながら、第二第三の太刀を受けとめぬ。その命を断ちしは第四の太刀なりき。六郎が母もこの夜殺されぬ。はじめ家族までも傷《きづつ》けんという心はなかりしが、きり入りし一同《いちどう》の鳥銃放ちて引上げたるとき、一人足らざりしかば、怪みて臼井が邸にかえりて見しに、此男六郎が母に組《く》まれて、其場を去り得ざりしな
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