をよしとするものなるに、わが買いもてかえりしは、草津のいわなの大なるなれば、味定めて悪《あし》からんという。嘗《こころ》みるに果して然り。ここより薬師堂の方を、六里ばかり越ゆけば草津に至るべし、是れ間道《かんどう》なり。今年の初、欧洲人雪を侵《おか》して越《こ》えしが、むかしより殆ためしなき事とて、案内者《あんないしゃ》もたゆたいぬと云。
 廿四日、天気《てんき》好《よ》し。隣《となり》の客《きゃく》つとめて声高《こわだか》に物語《ものがたり》するに打驚《うちおどろ》きて覚《さ》めぬ。何事《なにごと》かと聞けば、衛生《えいせい》と虎列拉《これら》との事なり。衛生とは人の命《いのち》延《の》ぶる学《がく》なり、人の命|長《なが》ければ、人口《じんこう》殖《ふ》えて食《しょく》足《た》らず、社会《しゃかい》のためには利《り》あるべくもあらず。かつ衛生の業《ぎょう》盛《さかん》になれば、病人《びょうにん》あらずなるべきに、医《い》のこれを唱《とな》うるは過《あやま》てり云々。これ等の論《ろん》、地下《ちか》のスペンサア[#「スペンサア」に傍線]を喜《よろこ》ばしむるに足《た》らん。虎列拉には
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