道《みち》を取りて、杉林《すぎばやし》を穿《うが》ち、迂廻《うかい》して下《くだ》ることなり。これより鳳山亭の登《のぼ》りみち、泉《いづみ》ある処に近き荼毘所《とびじょ》の迹《あと》を見る。石を二行《にぎょう》に積みて、其間の土を掘《ほ》りて竈《かまど》とし、その上に桁《けた》の如く薪を架《か》し、これを棺《かん》を載《の》するところとす。棺は桶《おけ》を用いず、大抵《たいてい》箱形《はこがた》なり。さて棺のまわりに糠粃《ぬか》を盛りたる俵六つ或は八つを竪《たて》に立掛《たてか》け、火を焚付《たきつ》く。俵の数は屍《しかばね》の大小により殊《こと》なるなり。初薪のみにて焚きしときは、むら焼けになることありて、火箸《ひばし》などにてかきまぜたりしが、糠粃を用いそめてより、屍の燃《も》ゆるにつれて、こぼれこみて掩《おお》えば、さる憂《うれい》なしといえり。山田にては土葬《どそう》するもの少く、多くは荼毘するゆえ、今も死人《しにん》あれば此竈を使《つか》うなり。村はずれの薬師堂の前にて、いわなの大なるを買《か》いて宿《やど》の婢に笑《わら》わる。いわなは小なるを貴び、且ところの流にて取りたる
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