ぢいさんばあさん
森鴎外
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)麻布龍土町《あざぶりゆうどちやう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)松平左七郎|乘羨《のりのぶ》と云ふ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、248−下−24]《あね》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)なか/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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文化六年の春が暮れて行く頃であった。麻布龍土町《あざぶりゆうどちやう》の、今歩兵第三聯隊の兵營になつてゐる地所の南隣で、三河國奧殿の領主松平左七郎|乘羨《のりのぶ》と云ふ大名の邸の中に、大工が這入つて小さい明家《あきや》を修復してゐる。近所のものが誰の住まひになるのだと云つて聞けば、松平の家中の士《さむらひ》で、宮重久右衞門と云ふ人が隱居所を拵へるのだと云ふことである。なる程宮重の家の離座敷と云つても好いやうな明
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