るも疾うから、お徳さんなぞのやうにけちなことは私はせぬ、私の心を打ち開けた上で、清さんは何とおいひか知らねど、嫌とならそれまでの事、万に一つも聞いてもらはれたら、それから先は清さんの心次第、お前の親切に絆《ほだ》されて一旦かうはなつたれど、それでは小花に義理が立たぬ、これきり思ひ切れとなら、思ひ切つて小花さんに立派に謝《あやま》る分《ぶん》のこと、清さんに限つて小花さんを私《わたし》に見変へるといふはずはなけれど、さうなれば私は命も何も入《い》りませぬ、それぢや命掛といふのだね、凄《すご》い話になつて来た、己なんぞの目ぢやあ、色の浅黒い痩《やせ》つぽちの小花より女は遙《はるか》兼ちやんが上だ、清こうは慥《たし》か二十五でお前には一つ二つの弟、可哀《かあい》がられて夢中になつた日には小花には気の毒なれど、呼ぶだけは己が呼ぶ、跡は兼吉つあんの腕次第だと、座を外《はず》してゐた女を呼んで使の事を頼めば、銚子《ちょうし》持つて立出づる廊下の摩《す》れ違《ちが》ひさま、兼吉ねえさんが、ああ下で聞いてよと入り来るはお万なり、髪は文金《ぶんきん》帷子《かたびら》は御納戸地《おなんどぢ》に大名縞《だい
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