じいさんばあさん
森鴎外
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)麻布竜土町《あざぶりゅうどちょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今歩兵第三|聯隊《れんたい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−
文化六年の春が暮れて行く頃であった。麻布竜土町《あざぶりゅうどちょう》の、今歩兵第三|聯隊《れんたい》の兵営になっている地所の南隣で、三河国奥殿《みかわのくにおくとの》の領主松平左七郎|乗羨《のりのぶ》と云う大名の邸《やしき》の中《うち》に、大工が這入《はい》って小さい明家《あきや》を修復している。近所のものが誰の住まいになるのだと云って聞けば、松平の家中の士《さむらい》で、宮重久右衛門《みやしげきゅうえもん》と云う人が隠居所を拵《こしら》えるのだと云うことである。なる程宮重の家の離座敷と云っても好いような明家で、只台所だけが、小さいながらに、別に出来ていたのである。近所のものが、そんなら久右衛門さんが隠居しなさるのだろうかと云って聞けば、そうではないそうである。田舎《いなか》にいた久右
次へ
全15ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング