水道橋外で、今|白山《はくさん》から来る電車が、お茶の水を降りて来る電車と行き逢う辺《あたり》の角屋敷《かどやしき》になっていた。しかし伊織は番町《ばんちょう》に住んでいたので、上役とは詰所で落ち合うのみであった。
石川が大番頭になった年の翌年の春、伊織の叔母婿《おばむこ》で、やはり大番を勤めている山中藤右衛門と云うのが、丁度三十歳になる伊織に妻を世話をした。それは山中の妻の親戚《しんせき》に、戸田|淡路守氏之《あわじのかみうじゆき》の家来|有竹某《ありたけぼう》と云うものがあって、その有竹のよめの姉を世話したのである。
なぜ妹が先によめに往《い》って、姉が残っていたかと云うと、それは姉が邸奉公をしていたからである。素《もと》二人の女は安房国朝夷郡真門村《あわのくにあさいごおりまかどむら》で由緒のある内木四郎右衛門《うちきしろえもん》と云うものの娘で、姉のるんは宝暦《ほうれき》二年十四歳で、市ヶ谷門外の尾張中納言宗勝《おわりちゅうなごんむねかつ》の奥の軽い召使になった。それから宝暦十一年|尾州家《びしゅうけ》では代替《だいがわり》があって、宗睦《むねちか》の世になったが、るんは続い
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