で行つてしまひました。さてわたくしの体を縛り付けてゐる樽は、まだ海に飛び込んだときの壁面の高さと、漏斗の底との、丁度真中ほどにをりますとき、忽然渦巻の様子に大変動を来たしたのでございます。恐ろしい大漏斗の壁面が一分時間毎にその険しさを減じて来ます。渦巻の水の速度が次第々々に緩くなつて参ります。底の方に見えてゐたしぶきや虹が消えてしまひます。渦巻の底がゆる/\高まつて参ります。空は晴れて参ります。風は凪いで参ります。満月は輝きながら西に沈んで参ります。わたくしはロフオツデンの岸の見える所で、モスコエストロオムの渦巻の消え去つた跡の処より大分上手の方で、大洋の水面に浮き上がつてまゐりました。もうこの海峡の潮の鎮まるときになつたのでございます。併し海面は、暴風《あらし》の名残で、まだ小家位の浪が立つてゐるのでございます。わたくしは海峡の中の溝のやうな潮流に巻き込まれて、数分間の後に、岸辺に打ち寄せられました。漁師仲間がいつも船を寄せる所なのでございます。」
「わたくしは一つの船に助け上げられました。そのときはがつかり致して、もうなくなつた危険の記念に対して、限りのない恐怖を抱いてゐました。わ
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