般にさういふ説が行なはれてゐるが、自分はそんなことは信じないと云つたのである。それから最初の渦巻の出来る原因といふことに就いては、その男はまるで分からないと云つた。これには僕も同意する。紙の上で読んで見たときは尤《もつとも》らしく思はれたが、この水底の雷霆《らいてい》を聞きながら考へて見ると、そんな理窟は馬鹿らしくなつてしまふのである。
連の男が云つた。
「渦巻の実況はこれで十分御覧になつたのでございませう。どうぞこの岩に付いて廻つて来て下さいまし。少し風のあたらない所がございます。そこなら、水の音も余程弱くなつて聞えて来ます。そこでわたくしが自分の経歴談をお聞かせ申したいのでございます。それをお聴きになつたなら、このモスコエストロオムのことを、わたくしが多少心得てゐる筈だといふわけが、あなたにもお分かりになるでございませう。」
僕はその男の連れて行く所へ付いて行つて、蹲《しやが》んだ。その男がこんな風に話し出した。
「わたくしと二人のきやうだいとで、前方《まへかた》大約七十噸ばかりの二本|檣《ほばしら》の船を持つてゐました。その船に乗つて、わたくし共はモスコエを越して、向うのウル
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