まど》ひて、一日の生計《たつき》、これがために已《や》まむとまでは想到《おもいいた》らざりしか。しばしありて、女の子は砕《くだ》けのこりたる花束二つ三つ、力なげに拾はむとするとき、帳場にゐる女の知らせに、ここの主人《あるじ》出でぬ。赤がほにて、腹突きいだしたる男の、白き前垂したるなり。太き拳《こぶし》を腰にあてて、花売りの子を暫し睨《にら》み、『わが店にては、暖簾師[#「暖簾師」の右側に《のれんし》、左側に《ハウジイレル》とルビ、45−5]めいたるあきなひ、せさせぬが定《さだめ》なり。疾《と》くゆきね。』とわめきぬ。女の子は唯《ただ》言葉なく出でゆくを、満堂の百眼《ひゃくまなこ》、一滴《ひとしずく》の涙なく見送りぬ。」
 「われは珈琲代の白銅貨を、帳場の石板の上に擲《な》げ、外套《がいとう》取りて出でて見しに、花売の子は、ひとりさめさめと泣きてゆくを、呼べども顧《かえり》みず。追付きて、『いかに、善《よ》き子、菫花のしろ取らせむ、』といふを聞きて、始めて仰見《あおぎみ》つ。そのおもての美しさ、濃き藍《あい》いろの目には、そこひ知らぬ憂《うれい》ありて、一たび顧みるときは人の腸《はらわた
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