アぐり》うりにて、焼栗盛りたる紙筒《かみづつ》を、堆《うずたか》く積みし箱かいこみ、『マロオニイ、セニョレ。』(栗めせ、君)と呼ぶ声も勇ましき、後につきて入りしは、十二、三と見ゆる女《おみな》の子《こ》なりき。旧《ふる》びたる鷹匠頭巾[#「鷹匠頭巾」の右に《たかじょうずきん》、左に《カプウチェ》とルビ、43−14]、ふかぶかと被《かぶ》り、凍《こご》えて赤うなりし両手さしのべて、浅き目籠《めご》の縁《ふち》を持ちたり。目籠には、常盤木《ときわぎ》の葉、敷き重ねて、その上に時ならぬ菫花《すみれ》の束を、愛らしく結びたるを載せたり。『ファイルヘン、ゲフェルリヒ』(すみれめせ)と、うなだれたる首《こうべ》を擡《もた》げもあへでいひし声の清さ、今に忘れず。この童《わらべ》と女の子と、道連れとは見えねば、童の入るを待ちて、これをしほに、女の子は来しならむとおもはれぬ。」
「この二人のさまの殊《こと》なるは、早くわが目を射《い》き。人を人ともおもはぬ、殆《ほとんど》憎げなる栗うり、やさしくいとほしげなるすみれうり、いづれも群《むれ》ゐる人の間を分けて、座敷の真中《まなか》、帳場《ちょうば》の前あ
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