入れむとて伴《ともな》ひたるは、巨勢《こせ》君とて、遠きやまとの画工なり。」とエキステルに紹介せられて、随来《したがいき》ぬる男の近寄りて会釈《えしゃく》するに、起《た》ちて名告《なの》りなどするは、外国人《とつくにびと》のみ。さらぬは坐したるままにて答ふれど、侮《あなど》りたるにもあらず、この仲間の癖《くせ》なるべし。
 エキステル、「わがドレスデンなる親族《みうち》訪《たず》ねにゆきしは人々も知りたり。巨勢君にはかしこなる画堂にて逢ひ、それより交《まじわり》を結びて、こたび巨勢君、ここなる美術学校に、しばし足を駐《とど》めむとて、旅立ち玉ふをり、われも倶《とも》にかへり路《じ》に上りぬ。」人々は巨勢に向ひて、はるばる来《き》ぬる人と相識《あいし》れるよろこびを陳《の》べ、さて、「大学にはおん国人《くにびと》も、をりをり見ゆれど、美術学校に来たまふは、君がはじめなり。けふ着きたまひしことなれば、『ピナコテエク』、また美術会の画堂なども、まだ見玉はじ。されどよそにて見たまひし処にて、南|独逸《ドイツ》の画《え》を何とか見たまふ。こたび来たまひし君が目的は奈何《いかに》。」など口々に問ふ
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