たかたのうたてき世を喞《かこ》ちあかしつ。
時は耶蘇暦千八百八十六年六月十三日の夕《ゆうべ》の七時、バワリア王ルウドヰヒ第二世は、湖水に溺《おぼ》れて※[#「※」は「歹+且」、第3水準1−86−38、66−6]《そ》せられしに、年老いたる侍医グッデンこれを救はむとて、共に命を殞《おと》し、顔に王の爪痕《そうこん》を留《とど》めて死したりといふ、おそろしき知らせに、翌《あくる》十四日ミュンヘン府の騒動はおほかたならず。街の角々には黒縁《くろぶち》取りたる張紙《はりがみ》に、この訃音《ふいん》を書きたるありて、その下には人の山をなしたり。新聞号外には、王の屍見出だしつるをりの模様に、さまざまの臆説《おくせつ》附けて売るを、人々争ひて買ふ。点呼に応ずる兵卒の正服つけて、黒き毛植ゑたるバワリア※[#「※」は上部が「矛+攵」下部が「金」、第3水準1−93−30、66−10]《かぶと》戴《いただ》ける、警察吏の馬に騎《の》り、または徒立《かちだち》にて馳《は》せちがひたるなど、雑沓《ざっとう》いはんかたなし。久しく民に面《おもて》を見せたまはざりし国王なれど、さすがにいたましがりて、憂《うれい》
前へ
次へ
全41ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング