ました」なんぞと云って、電話で喧嘩《けんか》を買ったのである。今は大分おとなしくなっているが、彼れの微笑の中には多少のBosheit《ボオスハイト》がある。しかしこんな、けちな悪意では、ニイチェ主義の現代人にもなられまい。
 号砲《ドン》が鳴った。皆が時計を出して巻く。木村も例の車掌の時計を出して巻く。同僚はもうとっくに書類を片附けていて、どやどや退出する。木村は給仕とただ二人になって、ゆっくり書類を戸棚にしまって、食堂へ行って、ゆっくり弁当を食って、それから汗臭い満員の電車に乗った。
[#下げて、地より1字あきで](明治四十三年八月)



底本:「普請中 青年 森鴎外全集2」ちくま文庫、筑摩書房
   1995(平成7)年7月24日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版森鴎外全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜9月刊
入力:鈴木修一
校正:mayu
2001年6月19日公開
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