…明××日、本人出頭のこと……代人を認めず……ふう。」
田辺は平べったい顔をひきゆがめ、鼻をくんくん鳴らしながら、二度も三度もその文句を口にしている。
「なんでもありませんよ……いや、時に、こないだ村会で大いにやられたそうで、村民も大喜びでしょう。実際、私からいってはなんですが、瘤のこれまでのやり方というものは、その、あれ[#「あれ」に傍点]ですからな……」
「これは、やっぱり、本人が行かなくちゃいかんものかな」と田辺は顔をしかめて呻るように言った。
「はア、やっぱり、本人が……」
次の日、F町の警察へ出かけた田辺定雄は夜になっても帰らず、その翌日もかえらなかった。
選挙違犯で、彼から「清き一票」を買ってもらったという十数名の村人と共に、ひどい取調べをされているという噂が立った。すると、
「ああ、それはなんだ[#「なんだ」に傍点]よ」とわざと田辺の妻へ言ってくれるものが出て来た。「それは、奥さん、瘤神社[#「瘤神社」に傍点]へお詣りすれば、はア直ぐに帰されるよ。そのほかに方法はないでさ。」
* * *
以上のようなことがあってから、約一ヵ年半の月日
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