憎悪・排撃するかと思うと、一方においては腕力的防護者として、彼にたよる気持――それはどう解釈したらいいのであろうか。田辺定雄はしばし混迷の中を彷徨しなければならなかったのである。
そこで彼は「瘤のような腕力のすぐれた、県の役人など屁とも思わない……云々」という瘤礼讃の根拠を想い出した。それは彼もうすうす聞いて知っている村基本財産査閲事件――津本が県会議員をやめて「名村長」、大もの村長として自分の村に君臨して縦横の手腕を揮っていた時分、誰の差し金かは分らぬが――恐らく彼に反対する一派のものの投書によってらしかったが――抜打ち的に県から二人の役人がやって来て村の金庫をあらためようとした。不意を食った村当局は周章狼狽、蒼白になって手も足も出ない始末であったが、急をきいてやって来た津本村長は悠然として、応接間に二人の役人を招じ、さて金庫を背に、例の人を威嚇するような音声で「この帳簿に記載してある通り基本財産は一文も缺けずこの中に入っている。それはこの俺が首にかけて証言するから、その旨、このままお帰りになって報告してもらいたい。」
しかしお役目大切とのみ思いこんでいて、融通のきかない[#「融
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