通のきかない」に傍点]県の役人は、村長のその言を信用せず、あくまでも金庫の中をしらべようとして、鍵を要求した。すると瘤村長はいきなり突っ立ち上って鍵をポケットから引っ張り出し、「さア鍵はここにある。だが、俺の言明を信用しないというんなら、俺にも覚悟がある、いや、信用させて見せる。」
言ったかと思うとやにわに自分の座っていた椅子を逆さまに引っつかみ、大上段に振りかぶり、きっと二人を睨み据えた。二人の役人は検印もそこそこに退却してしまった。
改めて瘤礼讃の一席を弁じた男を考えた田辺定雄は、今やその「何故か」を了解したと思った。彼もまた瘤の腕力によって自分の金庫を――整理すれば空っぽにならなければならぬそれを護ってもらいたいのだ。そしてそのためには多少は喰われたって仕方がないと打算しているのだ。「うむ、村民の中には、そういう考え方をしているもの――つまり瘤を必要とするような状態のものもあるわけなんだ。」
「しからば俺は一体、どちらを代表すればいいのだ。悪鬼の如く排撃する方の側か、それとも多少は喰われても薄氷上の財産を擁護してもらいたい方の側か……」
とかくするうちに村会の日がやって来た
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