議――一人は新顔で、年齢も若く田辺と共に三十五六歳、気骨もあるらしかったが、――これとて未だ海のものか山のものか分りはしない。
結局、「孤軍奮闘」は覚悟しなければならない状態だった。田辺定雄とて、それは最初から――出ると決意した以上――免れ得ぬ事実と考えていたので、あえて驚きはしなかったが。
「なアに、無言の、村民の正義感が百万の味方さ。俺は彼らのために、一人でやるよ、やるとも……」
それにしても今や容易ならぬ事情に村それ自身が、および彼自身がまた、乗り上げてしまっていることがようやく解ってきた。それは部落のお祭の日であったが、少し酔いが廻ったところで、人々の口は新村議の前でかたい堰をこんなふうに破ったのである。
「とにかくここで一洗いざあッと[#「ざあッと」に傍点]洗われて見ろ、村全体根こそぎ持ってゆかれたって足りやしねえから。」
ふと、大仰に言っている声に振り向くと、それは造化の神が頭部を逆に――眼鼻口は除いて間違えて付けたのではないかと思われるほど頬から※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]へかけて漆黒の剛毛が生え、額からあたま[#「あたま」に傍点]の素天辺はつるつるに
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