禿げている森平という一小作農であった。彼が最近、村の産業組合からたった一枚残っていた一反五畝歩の畑を「執行かけられ」取り上げられてしまったことは誰一人知らぬものはなく、そしていま、その彼が大仰な身振りではじめた話も、実は組合の内幕についてなのであった。
「何しろお前、看板はかけて置くけど事業というものは何ひとつしねえで、それで役員らは毎月缺かさず給料取っているんだから……」
すると、
「事業やってねえわけでもねえけんど」と古くから組合の世話人をやっている半白の老人が弁解するように言った。「肥料の配給、雑貨の仲つぎ……。でもあれ[#「あれ」に傍点]だよ、みんな組合を利用しべと思わねえから駄目なんだよ。」
「そりゃ誰も利用なんどするもんか、反対にこちと[#「こちと」に傍点]が利用されっちまア。雑貨と申せばどこかの店の棚ざらしか、三日も着ればやぶけるようなものばかりだし、肥料と申せば分析表ばかり立派で……まア、それもいいが現金販売ときては、われわれ貧乏人にゃ手が出めえ。」
「改革しなくちゃ駄目だ、あれでは……」と言ったものがある。すると森平親爺は、
「改革もへっちゃぶれも、もう出来るもんか
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