かも知れないという持前の茶気さえ出て来たし、それに何よりもまず瘤式の無謀な村政をつづけられたのでは、数年ならずして自分の家など潰滅してしまわなければならないであろう。
「皆さんの期待に添うことが出来るかどうかは分らないですが、とにかく、それでは出るだけでも出て見ますかね。」
 田辺青年は腕を拱《こまね》いてそう答えたのであった。

     三

 予期以上の票数を集めて彼は村会の椅子を獲得することが出来た。殆んど全部が再選で、依然として瘤派が五名、反対派と目されるもの――実際は甚だしく頼りない連中だったが……二名、そして彼自身、という分野になった。吏員のうちでは助役以外、老収入役がアンチ瘤派と思われていたが、これもなんらの力にはならず、杉谷助役でさえどれだけの肚をもっているのか――恐らく二年間の村長の空席には、自然と自分がのし上るべきものと取らぬ狸の……をきめ込んでいた矢先へ、のこのこと瘤の野郎に乗りこまれたのが癪で……位のところかも分らなかったのである。事実この中老助役は、葭簀張りの小学校舎をつくった時代にあっては瘤から頭ごなしにやられていた一戸籍係にすぎなかったのだ。他の二名の村
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