きは言ったまま、しかし万能を振りつづけていた。
「捕えたよ、おっ母さん、早く……」
「馬鹿だな。そんなことしていねえで、この野郎、早くかかねえと泥たまってしようがあっか、こらっ、勝。」
 父親にどなられても勝は、片手にしっかと小鰻をぶら下げたまま畦へ上って、そして自分が携えて来て、その辺へ置いたはずのぼて[#「ぼて」に傍点]笊を探しにかかった。
 陽がかんかんと照り出して来た。もう子供の勝手な行動などに構っていられなかった。浩平は満身の力を鋤簾にこめて泥をすくい上げ、おせきは男のように大きく脚を踏ん張って代田を切返した。そして由次も――彼はもう三年も前から百姓仕事に引っ張り出されていたので、半人分以上、いや大人に近いまでの仕事をやってのけたのである。

     二

 次の日も次の日も一家のものは同じように泥上げ、代田の切返し、そして一目散に田植の準備を進めたが、肝心の肥料がまだ手に入っていなかった。自家製の堆肥だけはどうやら真似事位には入れたが、それだけでは泥の廻らない一段と高い方の田など全くどうにもならなかった。そこへは毎年きまって化成を三叺ほど叩きこんだ。ところでその肥料だが―
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