ほどまで掻いて来るという単純ではあるが子供の身にはやや骨の折れる仕事にとりかかった。田へ入るや否や、気持の納まらぬ彼は、丁字形の泥掻きで反対にいきなり由次の方へ泥をひっかけた。
「あれ、この野郎」由次も片脚を上げて足許の泥を跳ねとばしたが、それは勝の方へは行かず、遠く母親の方へ飛んだ。
「こら、由、何すんだ、馬鹿。」
叱られた兄貴を横眼で見て、勝は口をひん曲げ、眼玉を引っくり返してにゅっ[#「にゅっ」に傍点]とやった。いくらかそれでこじれた気分が直って、せっせとこんどは、本気に泥をかきはじめた。
それにしても次から次へと上げられる泥土を一人で掻くのは容易のことでなかった。勝は一時間もしないうちに大汗になってしまった。
「あ、メソん畜生――こら、こん畜生。」
淡緑色の小鰻が泥の中を逃げまどっている。叫びを上げた彼は泥かきを放り出し、両手をもって押えようと駈け寄った。
「おっ母さん、早く、容れもの――俺のぼて[#「ぼて」に傍点]笊――ぼて[#「ぼて」に傍点]笊、早く。」
「どこだか、ぼて[#「ぼて」に傍点]笊。――馬鹿野郎、そんなもの捕ったって、旨《うま》くもありもしねえ。」
おせ
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