な[#「へな」に傍点]餅にしても、鶏や牛にやってもやりきれねえ。でもようやくあれだ、と一俵半くらいになった。そのあとに、合格米が三俵、まア、どうやら残っていっから、田植だけはこれで出来べえと思っているんだ。」
 おせきはしみじみとそんなことを繰りかえした。勇が聞いているかいないかなどは確かめもせず。それから彼女は調子を改めて、「今日は勇がかえったから、米の飯でも、それでは炊くべ。碌な米だねえけんど、外米よりはまさか旨かっぺから。」
 そのとき「兄《あん》ちゃんが来てらア」と叫んでおちえとヨシ子が往還の方から飛びこんで来た。
「ほら、兄ちゃんだ――兄ちゃん、大きい兄ちゃん――」
 しかしヨシ子はきょとんとしている。この兄を見忘れているのかも知れない。でなければ服装や何かがどこか違うので、大きいあンちゃんではなかったと思っているのかも知れない。
 おみやげのキャラメルやビスケットの包みを抱かされてようやくヨシ子はにこにこと笑い出した。
 おせきはその間、鰹の切身を包みから出し、「早速煮ておくかな――」としばらくぶりで匂いをかぐ海の魚に、もう満悦の思いだった。勇が工場へ――叔父清吉の行ってい
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