でも、俺ら、そんなことはどうでもいいんだ。ひとに嗤《わら》われたくねえから、俺ら、していんだから……」
 投げつけてからおせきは、傍につくねんと立っているおさよに向って昂《たか》ぶる胸のうちを奔注させた。
「赤玉飲ませたのか、あれほど言ったのに、……飲ませりゃ、こんなにならないうち癒ってしまアんだ。」
「だってお母さんは……いくら飲ませたって、げっげっ……と吐いてしまうんだもの、しようあっかい。」
「しょうある、この馬鹿|阿女《あま》――十三四にもなって赤ん坊の守も出来ねえなんてあるか。」
「おさよのこと怒ったって病気はよくなんめえ」とお常がそこへ横あいから口を出した。「それより、はァ、早く医者様でも頼んで来なくてや、ヨチ子おッ殺しまアべな。」
「大きなお世話だよ。いくら俺だって七つや十の餓鬼奴《がきめ》じゃあるめえし、それ位のこと、言われなくたって知ってらア。知っていっけんど、医者っちば、すぐに金だっペ。金はただでは誰も持って来てくれねえんだから……俺らには……」
「それこそ大きなお世話だ。」お常はお終いの一文句が自分にあてつけられたものと思って鋭く言いかえした。「汝《いし》ら、そん
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