中は、今の今、塚屋とやって来た取引談のことで暴風のような状態だったのだ。――公定だなんて、野郎。あらかた倍でもきくめえ。あんなもの誰が、それでは――って買えるけえ。阿呆にも程度ちうものがあらア。――だが、一方ではそれを打ち消して、しかし、反七俵に廻ってくれるようだと、なアに、あれを買ったって損はねえ。第一、元肥を打って植えるその気持だからな、そいつが千両したって買える品物じゃねえんだから……
由次が何か答えたようであったが耳に入らず、浩平は投げ出してあった自分の鋤簾をつかみ、器械的にそれを掘割へ投げこんだ。
さて、その頃、ヨシ子の容態が急に悪いといって、おせきは再びおさよから迎えを受け、家へとんでかえって、あれこれと気も転倒し、てんてこ[#「てんてこ」に傍点]舞いを演じていた。ヨシ子は今にも眼の玉を引っくりかえしてしまいそうなどろんこの眼をして、もはや痛みを訴える力もなく、うつらうつらと、高熱の中に、四肢をぴくつかせていた。腹部を見ると、まるで死んだ蛙のようにぷくらんと膨れ上り、指先で押しても凹まないくらいだった。
「おやまア、どうしたんだや、ヨチ子――」
おせきは初めのうち茫然
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