といつかなかった。労働と叱責、それは彼らにとって堪え得ないものであるらしかった。彼らは彼ら自身の生活方法を獲得していて、夜だけはどうやらぼろ[#「ぼろ」に傍点]家へかえるが、夜が明けると雀のように唄いながら餌をあさりに出てしまった。
 作物を荒された村人は、よく親父のところへ抗議するのだったが、親父先生は返事もしなかった。執拗に談じ込むと、彼はうるさそうに叫んだ。「ぶっ殺すともどうとも勝手に、勝手に……俺は、俺だ。俺の知ったことじゃねえ。」
 彼は炊事もやらなかった。殆んど塩と水で生きているらしい、とは近所のものの観察である。彼がああなる前に収穫した籾が、俵に五六十残っているが、そいつを小出しに、ぽつぽつ食っているらしいとのことでもあった。
「こないだ郵便物が来たから持って行ったら」とこの話をした私の友人――××局の配達夫をやっている――が真面目な顔でつけ加えるのであった。「相変らず堆肥のような蒲団の中に、この暑いのにもぐっていて、そんなものわざわざ持って来てくれなくてもよかったっけな……なんて、手紙を受取ろうともしないんだから……」
「百円札が入っていたかも知れないのにな。……それは
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