する茅刈り場――そのもののごとく草|蓬々《ぼうぼう》であった。背丈を没する葦さえそれに交って、秋になると白褐色の穂を、老翁の長髯のようにみごとに風になびかせた。数年この方、彼は耕さなかったのである。しかも自己の持地に隣る三反歩の小作田まで一様に死田化して顧みなかったのだ。
水田ばかりではなかった。畑地をも彼は雑草に一任してしまっていた。親戚のものは、わざわざ何回も「会議」を開いて彼に忠告した。村長や警察まで心配して――なんとなれば彼は国民の三大義務の一つ、納税なるものを果さなかったので――威嚇した。三反歩の方の地主は強硬に土地返還を迫った。が彼はそれらのいずれに対しても頑として応じなかった。「勝手に何でもやれ! 俺は、俺だ。」
そして彼は毎日寝ていたのだった。夜も昼もなかった。一番奥の部屋へ蒲団を敷きぱなしにして。屋根からは雨漏りがした。壁は崩れてしまった。掃除もしない家の中は、埃や鼠の糞だらけだった。
彼には二人の子供があった。長男は十四歳で次の女の子は十二歳のはずだった。彼らは全く野獣化して、他家の果樹へよじ登ったり、畑のものを失敬したりして生きていた。親戚で引き取っても三日
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