来の農業はどうしてもアメリカ式、ないしロシヤ式でなければならないこと等々を滔々として語り、いかに自分がそういう方面において、新しい計画、経綸を持っているかを誇示したのであった。
やがて男爵はKといっしょに農会長の宅を辞去した。辞去するまでには、男爵は農会長をして翌日、画家小川芋銭氏を紹介させ、そして満州における大農場建設の資金の一助として絵を幾枚か書かせようという手筈まできめてしまったのであった。
「じゃ、どうぞよろしく。」
「承知しました。」
意気揚々としてそこを出た男爵は、Kの肩を叩いて、
「君、どうだね。ひとつ満州へ勇飛しないかね。」
「いや、大いに勇飛したいと考えていたんですがね。」
「じゃ、僕のところで高給を出そうよ。それからね、僕は、実に、その君の高潔なる犠牲的精神と、現代、農村青年のみが持っている本当の真面目さに惚れ込んだよ。それでだね、どうだね、折入って話したいことがあるんだが……」
若いKは、東京の男爵閣下に、かくも慇懃に持ちかけられたので、じゃ、ひとつ、そこでひと休みしながら……と言わざるを得なかった。何となれば、ちょうどそこには、それにふさわしい「御休所」が
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