ぶやいて、右足のも脱いで、そのまま座ってしまった。
 その夜は雑談に花が咲いて、無事に過ぎた。男爵はなかなか座談に長《た》けていたのである。いかに怪しいとにらんだからといって、まさか、真っ向からそう訊ねるわけにもいかない。いや、本ものであった場合は、大変な「失礼」にあたってしまう。
        *    *    *
 次の日、男爵は沼へ写生にでも行くかと思いのほか、村の有志訪問と出かけたのであった。最初に、農会長を訪ねた。
「僕、満州に農場をはじめかけているんですよ。約三千町歩ばかりの荒蕪地を払下げてもらってね。大々的に、近代式の機械をつかって、アメリカ式にやろうと思ってね。」
 そしてそのアメリカ式の大経営が、いかに巨大なる利益のあるものであるか。また、そこの従業員や農耕者の雇入れ……いずれ移民を募集するのだが、この辺からも一つ、農会の尽力で、五十名ばかり欲しいものだ。いや、この辺の百姓はなかなか勤勉であるし、次三男諸君も随分いるようである。
 ちょうどそこへは隣村の失業農業技術員Kという青年が来合せていた。男爵はすぐにこのKへ親しみの視線を送り、内地農業の見込みのないこと、将
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