に不如意がちな私たちの離京生活をなげくのであった。
 浩さんにそれが通ずるなんてことはありえない。平然として浩さんは自分の生活を生活した。明日持って来るからといって一円二円の酒代を借りに来ることも二三度に止らなかった。
        *    *    *
 そのうち彼は嫁さんを貰うことになったという話を自分からした。子供をひとり連れて来るそうだが、まだ十九とかで……もっとも俺のことも先方へは三十位に言ってやってあるらしい。としごく暢気である。どんな女かまだ見もしないし、先方でもまだ誰も見に来ないというのである。式があるという日は大吹雪で、新聞によると、方々で花嫁の遭難談があったらしいが、浩さんの嫁さんも途中でひっかかってしまい、その翌日ようやくの思いでたどりついた。迎えに行った浩さんは吹雪のために道を失い、腹の方まで埋る道なき道を歩き通したために胃腸を冒され、お蔭で花嫁さん(?)を前に、二三日起きることも出来なかったとか。嫁さんらしい人の姿と子供の泣き声はするが、肝心の浩さんの姿が見えないのでどうしたのかと考えていたら、そこへ青くやつれた浩さんが薬を貰いにやって来てのその話だった。
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