嫁さんと入りかわりに妹がどこかへ出て行った。「嫁にやった」のだと浩さんは言ったが、誰も信用しなかった。「また前借踏みたおして三日もすると逃げて来ンだっぺ」と村人は噂していた。ところで一方、嫁さんは十九どころか二十五六には見えた。子供というのは二つ位の女の子であった。浩さんは病気がよくなるとその子をおんぶして、ぶらりと、私が薪を割ってなどいるところへ遊びにやって来た。都合がついたら一日やって来て薪ごしらえをしてくれないかと頼むと、明日でも、と答えるのであったが、その明日になると姿が見えなかった。朝っぱらから用があって他出したのだという。何日頃来てくれるかと念を押すと、雪がなくなったら二三日つづけて薪ごしらえをしたり、野菜畑の準備をしたりしますべと答える。雪はしかしなかなか消えなかった。ようやく庭先になくなったと思うと、空模様が怪しくなってちらほらやって来るが、それでもとうとう春は訪れて来た。雀は雪に凍てた羽根をのばして朝早くから啼き、四十雀や目白などの美しい小鳥の群も庭先の柿の木へ餌をあさりにやって来るようになった。雪の解けた下からは黒い土が、ほかほかと陽炎《かげろう》を立てた。
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