だ夕方に出来上ったのであった。浩さんは次の日も来てくれて、枝の片づけをどうやら終った。それは旧正月の二日前のことで、村では餅つきも終り、一年間の決算をつけなければならぬ間際であったのだ。浩さんはその晩近所の親しい家で酒をご馳走になって来た……などと言いながらひょっこり土間へ入って来た。私は就床していたが、酔ったと言いながら何かしおしおしている浩さんの顔を見ると、「金だな」と妻は直感したそうである。翌くる日浩さんはまたやって来た。いくら位要るのだと訊ねると、彼は、年の暮で、どうも……と濁している。結局半年分、いや十円もあればどうやら越せるのだと言う。私の考えでは、村の習慣を知らぬものだから一年分を三つにしてその一つだけでもやればいいのだろうと考えていたのであった。十円は私たちにとって実に痛かった。東京では一家六人の生計がどうにもつかず、村へ帰れば、廃家ではあるが家賃の出ない「屋根の下」があることだし、なおその他のいわゆる「諸式」だって少しは軽減されるであろうし、それから精神的な理由もあったが、とにかくそう考えて生活転換をした矢先なのである。だが、文筆生活などをしていると、一文なしになるこ
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