込めようとすると、無理に手頸なんか握っちまって放さねえで。それから、お前さんはひとり者だな、商売の方は今うまく行ってねえが、どうこうすっとうまくいくようになると、お決まりの文句を並べはじめたっけが、おいささんも商売は熱心だからね、その話になると、つい、乗っちまったね。神様と話おっぱじめっちまった訳でさよ。
 すると神様は喋り出した。いや、何を喋ったか知らねえが、酒をもう一杯、もう一杯……で、とうとうおいささんへ杯を差したもんで、受けろッち騒ぎでさ。おいささん、はじめてびっくらして、嫌だって逃げると、そんなことはねえ、神様の杯、なんとかかんとかって怒り出しちまってね。おいささん、怖くなっちまって、肴に蟹やるから、酒だけは勘弁してくろッちわけでね、なんでも蟹二つ三つ、籠から出して神様に食わせて、ようやく機嫌直してもらったね。
 するとどうだっぺね、神様すっかり悦んでしまって、商売繁昌の呪禁《まじない》してやっから、あっちの、奥の部屋で、十五分ばかりで済むから、いっしょに酒飲みながら……っち話さ。あの神様、あれでよっぽど女好きですと……
 バスが来てしまった。神様はおいささんを呪禁ったかどう
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