と、その神様がここへ寄りましたよ。俄か雨がやって来て、洋傘もなかったらしく、ずぶ濡れになってしまって飛び込んで来たンでしたが、ちょうどそこに、××から蟹を商いにやって来たおいささんという女のひとが、やはり雨宿りしていたんですよ。おいささんはもう十年ばかり後家を通している働きもんでね、いくらか小金もためているという評判もあるンですがね。あれで少し顔でも人並みだと、まさか誰だってああして一人じゃ置きますめえがね……なにしろあのご面相じゃ……でもまだ若いんですよ、三十を越したばかりでしょ。まアそれはとにかく、おいささんが、今晴れるか晴れるかと思って、空ばかり見ているもんだから、神様もはじめは黙って、着物なんか拭いていたっけがね、「おッ母《かあ》、酒一ぱいつけろ!」っちから、つけてやると、それを旨そうに飲んで、急にご機嫌になっちまってね、どれ、姉さん、手の筋見てやっぺ……なんて、こう、ぐいッとおいささんの方へ寄り添っちまってね、おいささん、びっくらして、ぽかんとしているのもかまわず、手のひら引っくりかえして、ふう、ふう、姉さんは……っちわけだっけね。おいささんは見料取られッから嫌だって手を引っ
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