わぬ拾いものをしているとか、いないとか。
兼さんがお寺の門の前へまた座り込んだという話を聞いて、私は彼を訪ねて見た。むろん昔の小学校におけるこの同輩を、彼が記憶しているはずはない。
「兼さん! どうだい。」
言葉をかけても、彼は微動だもしない。人語を喪失した石上の修道者か何かのように、じっと前方を見つめたままである。
神様
村の一部を国道が通じている。そこを約一時間おきにバスが通っている。私の部落からその国道へ下りる坂の下に、ぽつんと一軒の家が建てられはじめている。どこからか壊して来たものらしい。聞いてみると、やはりそうで、そしてこれは実に「神様」の家なのであるという。
ある日、僕が国道のところでバスを待っていると、そこの茶店のお主婦《かみ》さんが、まア、しばらくですね、まだ時間があるようですから、こちらへ腰を下ろしてお待ちなせえよ、と言いながら、もうお茶など汲んで出してくれるのであった。その時、いま見て来た「神様の家」の話をして、いったい、どんな神様なんですかねと訊ねると、へえ、大した神様ですよ、と笑いながら次のようなことを話すのであった。
つい、こないだのこ
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