やの兼公」の、ある日ある時のポーズなのだ。そして彼には、もう一つの「お得意」のポーズがある。往来のまん中へ、赤裸のまま、両股をひらいて、そしてすっくと突っ立ち上り、両手を腰にあて、両眼を見開いて大空のある一点を凝視したまま、二日でも三日でも、気のすむまで地から生え抜いた天下大将軍のそれのように、悠然として立っているのである。
その爛々たる眼は何を見つめているのであろう。おそらく何も見てはいないのかも知れない。しかしながら天の一角に一つの不思議を発見して、その正体を見きわめようと据え付けられた精巧な器械のようにそれは見えるのである。
ところがこうした彼が往来へ突っ立ったが最後、実際、彼は「挺《てこ》でも動かない」のである。荷車をひいた百姓たちは、彼がそっくりそのまま石の地蔵尊でもよけるようにして傍へ片づけ、そして辛うじて通り得るのである。年頃の娘たちなどは、顔を火のようにするか、でもなければ、この立像に会っては、数町を遠廻りしなければいられない。
しかし彼はいかなることをされようとも、決して人に危害を加えるようなことはないのである。彼は家というものももはや失い、主として山野に寝《い
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