雨戸を開け、座敷へ這い上るのもやっとのくらいだった。誰一人訪れるものもない家、ひっそりと静まりかえって、晩秋の淋しい陽射しに、庭前の雑草の花のみがいたずらに咲きほこっている草葺家の中に、彼女はひとり閉じこもったきり、うんともすんとも音を立てなかった。
そして約半月が経過した。誰もいないと思っている彼女の閉めきられた家から、突如として一つの呼び声が洩れはじめた。
「誰か来てくろよ。苦しいよ、あ、苦しいよ、誰か来てくろよ。」
人生における、そしてこの社会における孤独と自由の破産――実際、彼女の死顔を見たものは、痛苦の本質そのものに面接したようにぞっとしたという。
自然人
お寺の門のところにどっかと胡座《あぐら》をかいた、微動だもせぬ、木像の安置せられたような彼――いかなる名匠の鑿をもってしても、かかる座像を彫ることは不可能に相違ない。それは生きている、生存しつつある木像なのだ。大きなぎらぎら光る眼、ふさふさしたみごとな髯――それが生えるがままに伸びて、くっきりと高い鼻をいやが上にも浮彫し、まるで太古の神々の中の一人でもあるかのように見えるのである。
これは通称「ひらき
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