でも騰貴するので追いつく沙汰ではなかったのだ。
 このようにして儀作は、ようやく一人前になった忰の岩夫を相手に、この数年間なんとかして世帯をきり廻してはきたものの、さて、かの『荒蕪地』……田んぼの畦や畑境いの不毛地、税金だけはかかってくるが、一文の利用価値もないように思えるその草ッ原を見れば見るほど、考えれば考えるほど、ことに家計の方の苦しみが増大するにつれて、こんどは借金そのものが馬鹿くさいものに思われてならず、つい利を入れようと思っても入れずにしまい、まして忰にそのことを話してきかせるのなど阿呆の限りと、そのまますっぽかしてしまう年が多かった。お蔭でいまでは随分の元利合計になっているであろう。が、いい具合に(?)当の古谷さんでは大してきつく催促しなかった。儀作はその昔からの酒造家……この地方きっての財産家である古谷傅兵衛へは[#「傅兵衛へは」はママ]は若い頃から馬車の挽子《ひきこ》として出入りしていた関係もあって、言わば特別扱いを受けてきたのでもある。
 さて、儀作には、いくら鉛筆の芯で半白の頭を掻いてみても突いて見ても、結局、以上のようなことは書けないと分った。で、彼は書きかけの
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