ものへ入っているんだそうだからよ、それを思うと五十円やそこら寄付でもしたつもりになるさ。なアに、たった五十円だい、四五年みっちり働けば、それできれいに抜けっちまア……」
 だが、抜けるどころか、一年ならずして親父には死なれ、待望の米価は、ことに浜口緊縮内閣の出現によって一俵七円に下り、繭のごときは一貫二円という大下落で、この地方の重要産物である木炭のごときも四貫俵三十銭、二十五銭になってしまい、かつて儀作の副業……農閑期の馬車挽など、賃銀は下るばかりでなく、どんなに探し廻っても仕事の得られない日さえあるようになった。
 その上彼一家には不幸が連続した。前述のように、親父の中風、死に続いて、おふくろ[#「おふくろ」に傍点]が気がおかしくなって前の谷川の淵に落ちて半死のまま引き上げられたり、次には女房が四番目の子を産んで以来、まるで青瓢箪のようにふくれてしまい、ずっとぶらぶらのしつづけである。それらの出来事のために唯一の自作地であった三反の水田も抵当に入ってしまい、たとえその後、米穀法の施行などによって十二三円がらみにまで米価が上ったとはいえ、諸物価……都市工業の製産品はそれにつれてあくま
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