ていたのを知ったのであった。
 第一、炭運びが出来やしない、書き入れ時だというのに。そればかりでなく、戦時下の増産計画で、共同馬耕をつい先日協議したが、それも……村では、牡馬はよほどのよぼよぼでない限り、とうに徴発されてしまって殆んど残っていなかったのだ。
 結局、どうしてここを切りぬけたらいいのか。
「……やはり、娘に助けて貰うことにしたって――」その日一日、ぽかんとして家の周りをぶらついていた翌朝、彼の耳へ、今もってぶらぶらしている女房からそんなことが伝えられた。洋服を着た周旋屋がきょろきょろと隣村の停車場から下車して、この部落へも姿を現すのを彼とて知らぬわけはなかった。軍需景気で、東京方面ではそういうものがいくらでも必要だということも。
 しかし、儀作は女房の一言にかっ[#「かっ」に傍点]となって、
「ばかッ」とどなった。
「ばかッ、そういうまねは、流れ者か、碌でなしのすることで、れっき[#「れっき」に傍点]とした先祖代々からの百姓のすることだねえど。この青瓢箪。」
「でもそんなことを言ったって、馬にゃ換えられめえ。」
「ばかッ……」
「俺、お美津にきいて見ッから。」
 お美津は
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