そのとき、封印された馬に新しい切藁を与えていた。飼葉桶を内側へ入れようとすると、馬はいつものように鼻で言葉をいうように首を押しつけてくる。「こら、そんなことして……これ、汚れるからやだよ。――そんなことしねえたって、やるからそれ……あら、こんなによだれだらだら、俺げくっつけて……」
 それからお美津は、厩の前を掃除して、その掃き屑を塵取りに入れ、屋敷のすみの柿の木の下へ掘った穴へ棄てにゆく。鶏の群が何か餌でもくれるのかと思って、ぞろぞろとそのあとを追う。ねんねこ絆纏をまだ脱ぎもせず、長い、雪に埋もれた冬の間、火もない土間で、夜まで繩をなったために、手は霜焼けに蔽われ、髪の毛はかさかさにほおけ立って見える。十七とはいえ、まだ女にならぬであろう小さい臀部が――
「ばかッ、聞いてみなくたっていい。」
「清作さんら家の、おみさも行くというし、あれも、たしか、うちのお美津と……」
「いいから、そんなこと、つべこべ……」
 儀作は女房めがけて一撃を加えたい衝動にかられてきたので、急いで厩の前の、お美津がいまのいま掃除した地面の上へ大きな足あとをつけて馬の方へ歩みよった。仔馬のうちから自分の子供のよ
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