幾キロの米の収穫があると決まっているものではなく、いくら過不足なく施したにせよ、その年の天候いかんによってはなんらの甲斐もないことさえあったのだ。
それはなるほど思う存分に施して、これで安心というまでに手を尽して秋をまつにしくはない。しかしながらそれでも結局は例の運符天符……そこに落ちつくのが百姓の常道で、まず曲りなりにでも月日が過ごせれば、それで文句は言えなかった。
家のことを心配して、時々小為替券の入った封書などをよこすのは、かえって百姓に経験の浅い忰の正吾の方だった。……あの借は払ったかとか、どれくらい米がとれたかとか、たといどんなに手ッ張ったにせよ、俺のかえるまで、作り田は決して減らすなとか、あの畑へは何と何を播けとか、そんなことまで細かに、よく忘れないでいたと思われるほどあれこれと書いてくるのだ。黙っていると何回でも、返事をきくまでは繰返して書いてくるので、儀作の方で参ってしまい、前後の考えもなく、洗いざらい、そのやりくり算段を報告した。
ところでそこに問題が孕んでいたのだった。それと言うのは、事変二年目の決算についてだが、忰の思うとおりにはどうしても行きかねたのである
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