。しかもそのことを正直に書いてしまったものだから、早速、忰から「なんでソノ古谷さんの方だけ出来なかったのか、やろうと思えばやれたのではなかったか。それに俺としては、そんな大口のやつがあるとは実は知らなかった……」と詰《なじ》られる結果に陥ってしまった。儀作は、それを弁解かたがたふかい理由を書き送ろうと、鉛筆の芯をなめていたのである。実際、それは彼にとって深い、いや、それ以上に、解りにくい問題だった。
「アノ金は、ナルホドお前には、これまで、きかせずに置いたが……アレは、その、関東大震災のときだったから、コトシで……」
 ようやくのことでそんな風にはじめたものの、再び彼は、鉛筆の尖《さき》を半白のいが粟頭へ突き差すように持って行ってごしごしやり出した。どうもやはり駄目だ。
 それというのが、村のもの誰一人の例外もなく、それまで、田のあぜ[#「あぜ」に傍点]であり、畑のふち[#「ふち」に傍点]であると考えて、それ以上のことはてんで詮索しようとしなかった山腹や川沿いの荒地(それなしには傾斜地のことで田の用水は保たず、畑地にあっては、耕土の流亡を免れない場所)それが実は官有地であって、『荒蕪地
前へ 次へ
全26ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング