福があるって言うじゃない」とお梅がいった。
「そうら見ろ、あれ買って来ると、きっといい話があるから……はア、あんたの思いがかかっているんだもの、なんで誰にも手が出るもんか。」お民が重ねて言った。
 そのときは何の気なしに、ただ笑って、冗談として聞きすてたが、あとで、ひとりになって考えてみると、お通はやはり、人のいう運というようなものがあるような気がした。あのレーヨン錦紗がちゃんと残っている……きっと俺のものになる運命なんだ。
 と同時に、自分の生涯のことについても、それは適用出来そうだった。売れ残りとでも何とでも好きなように言うがいい。そのうちに、きっと、あれだから……
 お通は再び麦さく切りに出た。早くそれを終《お》やしてしまって、別にまた小遣銭をかせぎため、そして自分を待っているあの錦紗を買いに……と思うともう胸が弾み出していた。



底本:「犬田卯短編集二」筑波書林
   1982(昭和57)年2月15日第1刷発行
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2007年12月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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